しるし≪四幕≫AFRO IZM ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~≪四幕≫~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「シャァァァァァ・・・」 「怒ってんな、完全に」 シュウは青龍槍を構える。 「だが、だいぶ楽になった、姿が丸見えだ」 戒は太刀を脇構えに直し、倒れている桜火から離れる。 桜火の炎により、表面の組織をほとんど焼かれたオオナズチは、霧を噴射できなくなったのだろう。 姿は丸見えで、尻尾を地面に叩きつける動作を繰り返し、二手に分かれた戒とシュウを交互に見ている。 「それでもこっちは二人、ピンチには変わりないね・・・どうするよ?」 シュウは槍を構えたまま、オオナズチから目を離さずに戒に尋ねる。 「そうだな・・・、こうなったらやぶれかぶれ、攻撃あるのみだ」 そう言って戒は突撃、太刀を流れるようにオオナズチに向けて放つ。 ―ガギンッ― 『なにっ!?』 戒の太刀は、オオナズチの顔の先端に生えている角によって止められる。 オオナズチは本当に頭がいいようだ。 小さな脳をもつモンスター全般に言えることだが“防御をする”行動をとるのは普通では考えられない。 その理由の一つとして、人間の行動の早さ、反射神経はあるものの対応策が思いつかない、などがある。 それにもともと鱗や甲殻などで覆われているため、外敵の攻撃はそのまま防御できるからだ。 人間の目から見ると基本的にノーガード、攻撃オンリーの戦法がモンスターだ。 だがオオナズチは確かに防御行動を行なった。 戒の太刀は硬い角にさえぎられ、そのまま押し返される。 「く、シュウ!」 ―ザンッ― シュウの青龍槍がオオナズチの胸元に突き刺さる。 「どうよ!」 ―ザシュ― 突き刺した槍をそのまま顔方向に流す。 オオナズチのアゴはかち上げられるようにずれ、戒の太刀はそのまま顔面を切り裂く。 ―ザシュン― 「ギエェェェェェ!!」 オオナズチの怒りの咆哮。 至近距離で咆哮を受けた二人は体が硬直し、そのままオオナズチのタックルを受ける。 「うおぉぉ・・・」 吹っ飛ばされた二人は、起き上がる動作が遅れ、続いてオオナズチの追撃を喰らう。 ―ビシンッ― オオナズチの長い舌が鞭のようにしなり、上空から寝たままのシュウに向かって叩きつけられる。 「シュウ!」 痛む体を叩き起こすが、どうもうまく動かない。 戒は無双刀を杖代わりに立ち上がる。 がしかし、体が上手く動かない、スローペースでオオナズチに近づく戒。 ―ドシュッ― 「よそ見してんじゃねぇよ・・・」 オオナズチの翼の付け根に、下から突き刺さっているのは桜火の野太刀、白火虎徹。 突き刺さった衝撃で数瞬炎が舞い上がる。 ―ブシュッ、ザザッ― 「ギェェェェ・・・」 鉤爪状の先端をひっかけに、そのまま自分の方向へ力任せに引き抜く。 鱗や甲殻のない、皮だけのオオナズチの翼は、刃を阻害することなく切り離される。 翼の付け根部分からは、大空を飛ぶための翼ではなく大量の古龍の血が吹き出ている。 「もう逃げられんぜ、覚悟決めろや・・・」 桜火は虎徹を振りかぶり、さらに深手を負わせようと振り下ろそうとする・・・が。 「くっ・・・」 右半身の激痛が体を蝕み、力なく地に膝をつく桜火。 ―バチン― オオナズチの大きな尻尾が桜火をまたも襲った。 そのまま吹っ飛ばされ、地にひれ伏す桜火。 「桜火!」 駆けつけたのはカイ。 続いてリョーも駆けつけ、桜火とカイを守るように盾を構え、オオナズチとの間に立つ。 「おぉ、カイか・・・」 「大丈夫か?だいぶひどくやられたみたいだな」 「あぁ、もう疲れて動けねぇ・・・、交代頼むわ」 「はいよ」 「あぁ、それとカイ・・・」 「どうした?」 「アイツの中に、俺のポーチが入ってんだ、その中に指輪も入ってる・・・とり返してくれ」 「・・・わかった、アンタ、死にそうにはないからこのまま寝かしとくよ」 「はっ、俺が死ぬかよ・・・」 桜火は小さく笑うと、そのまま目を閉じる。 「さて・・・、どうするよ、オオナズチだぜ?」 リョーは盾を構え、オオナズチを睨みつけながら言う。 「やるしかないだろ、頼まれちゃったし、戒とシュウは?」 「ここだ・・・」 戒はダメージが抜けたのか、リョーの元へ寄ってくる。 「シュウは?」 「あそこだ、ダメージが残ってるはずだ、動けんらしい」 戒の指差す先には、シュウが痛みで震える足を支えに、オオナズチを睨みつけている。 「シュウ!無理すんなよ!一気に決めるぞ!」 そう言ってリョーはオオナズチに突撃。 自慢のガンランスの先端をオオナズチの胸元に突き刺す。 「ギェェェェ!」 オオナズチは小さく咆哮、リョーの向かって角を突き刺す。 ―ガギュギュ― オオナズチの尖った角が、リョーのガンランズの盾を貫いた。 「なっ・・・」 勢いに押され、たたらを踏むリョー。 ―バキャアン― 「ギエェェェ!」 苦しみの奇声を上げるオオナズチ。 神経の集中する角を折られ、苦しむ。 「おぉ~、戒、すげぇな!」 戒の持つ名工の武器、天下無双刀がここで火を噴いた。 リョーの盾を貫き、丁度いい位置に置かれた角に向け、戒は太刀を振り下ろす。 “一刀両断”とはまさにこの事、大きく振りかぶった太刀は、そのまま地面にめり込む形で刺さった。 同時にオオナズチの角が折れ、いや切断されたとの表現が正しいだろう、オオナズチの角は見事に斬り落とされた。 戒はダメージの蓄積もあったのだろう、そのまま離脱し、地に膝をつく。 ―ズンッ― 間髪入れずにシュウの青龍槍がオオナズチの横腹に突き刺さる。 戦闘の最初のほうに傷つけた桜火の傷に重ねるように突き刺した槍は、深く、オオナズチの臓器をえぐる。 「ギエェェェ!」 憎悪を込めた声を上げる。 突き刺さった槍を振り払おうと、暴れようとするオオナズチ。 ―ドォォォン― 暴れようとするオオナズチの顔面が爆発。 カイによる得意の狙撃、使用弾丸は徹甲榴弾。 「クゥゥゥ・・・」 ついに弱々しい声で頭を地に近づけるオオナズチ。 ―ガコッ、キュイィィィィン― 弱ったオオナズチの口内に突き刺さるのはリョーのガンランス。 突き刺したと同時に、ガンランス最大の武器である“竜撃砲”の予兆の音が流れる。 ―ドガァァァァン― 静寂の中、大きな爆音。 地に倒れ伏すのは、もはやただの肉塊と化したオオナズチ。 「ふぅ、討伐・・・・完了!」 リョーの声が静寂を切る。 同時に力が抜け、シュウが地に膝をつく。 「よーし、剥ぎ取りが終わったら野営地に帰るぞ!」 「あ、リョー!桜火のポーチがあったら回収しといてね」 「なんだ、ポーチ食われたんか?」 「ま、大事なモンでも入ってたんじゃない?」 動けるものは剥ぎ取りを行い、未だ意識のない桜火はカイに背負われ、野営地に運ばれた―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「ん・・・」 「あ、起きたっ」 目が覚めると、天井が見える。 どうやら自分は意識を失ったらしい、そう言えばなぜ意識を失ったのか。 あぁそうだ、オオナズチ、あいつが・・・。 「うおっ!?」 飛び起きると、右腕を主に、右半身に激痛が走る。 「痛ぇ・・・・」 「無理しないで、あんた重度の打撲なんだから」 「杏・・・」 自分が寝かされていた布団の隣には、杏がいた。 「打撲でよかったな、エリーなんて毒でぐったりだぞ」 続いてエリーの看病をしている戒が話し出す。 「戒・・・、オオナズチはよ?」 「討伐した」 「そうか・・・」 「残念だったな」 「いや、さすがだな」 「あぁ、そういえばカイから届け物だぞ」 戒はそう言うと、桜火のポーチを投げる。 「あぁ、サンキュー」 桜火はそれをキャッチすると、その中に入ってある煙草を加える。 「じゃ、リョー達にも報告してくるよ」 と、戒は竜車を出て行く。 「ふ~・・・」 桜火は煙草に火をつけ、煙を吐き出す。 「こ~ら、病人が煙草なんて吸わないの」 杏が物凄い速さで桜火の煙草をとりあげる。 「なっ・・・」 「無理しないでね、アンタ打撲って言っても“重度”なんだから」 「それより杏・・・」 桜火は杏に近づき、さらに顔を近づける。 『えっ、ちょっと、そんな急に、だいたいアンタ女がいるんじゃ、エリーちゃんだって側にいるし・・・』 「お前、俺と話さないんじゃなかったのか?」 桜火の髭ヅラが、悪そうな笑みを浮かべている。 しまった、騙された。 ちょっと真面目な顔して近づくもんだから私はてっきり。 だいたいなんなんだこの男は。 私の心配をよそに、なんだこの髭は、むかつく。 「いだっ!」 杏の手によって、桜火のアゴ髭がぶちっ、と抜かれる。 「痛ぇよ」 「知らないわよっ」 そう言って杏は竜車を出て行ってしまった。 「な~~にやってんのよ・・・」 「うおっ、エリー!起きてたのかよ!」 後ろでエリーが寝転びながら、呆れた顔をしている。 「桜火さんね、あそこでふつーキスのひとつくらいするわよ」 「ん・・・、どっから見てたんだよ」 「煙草吸うところから」 「あぁ、いいところからだな・・・」 桜火は止められたにもかかわらず、また煙草を吸い始める。 「なぁ、エリー」 「はい?」 ふー、と一息。 「あーゆう女を少しでも黙らせとくなぁ、どーやってやんだ?」 「あら、なんかするワケ?」 エリーは興味津々な様子で桜火に近づく。 「いや、まぁ、ちょっと話をな・・・」 「ふーん」 「いいから教えろよ、今度複数の相手との戦い方教えてやっからよ」 「ま、それはともかく、答えは簡単ね、桜火さんが真面目な顔して話せばいいのよ」 「ん?」 「杏ちゃんもそこまで天然な人じゃないと思うから、何されても少し強引に行けば、黙って話は聞くと思うよ」 「ほう」 「ただ、話は聞くだろうけど、その後の展開はわかんない、女って複雑だから・・・」 と、エリーは勝ち誇ったような顔をしている。 「なんだそりゃ」 「ま、とにかく、勝負はもう数時間しかないわよ、もうすぐドンドルマ着くみたいだし」 「えぇっ!?」 桜火が驚いて外を見ると・・・、本当だ、すでにドンドルマ付近の貿易道に入っている。 「おーい桜火!目ぇ覚めたんだって?」 「あ、エリーも起きてる、もう毒は大丈夫なの?」 シュウ、クロウが竜車に入ってくる。 他のメンバーは護衛をしているようだ。 「おい、なんか杏ちゃん怒ってたぞ、なんかしたのか?」 「う・・・、そいつは」 「聞いてよシュウさん、この人ってばね」 エリーが告げ口をしているうちに、ドンドルマの街門はすぐそこまで近づいていた―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「じゃ、俺達はここまでって事で」 「あぁ、ご苦労さん、ドンドルマに来た時は挨拶に来い!タダで演劇見せてやる!」 街門にて、クエスト終了の印を、団長からもらうリョー。 キャラバン一行は街門で解散、ハンター達はそのままミナガルデへ折り返すようだ。 『強引に・・・、か』 桜火はポーチに無事入っていた指輪を握り、杏に近づく。 「杏!」 「・・・」 『しかと?しかとかよ!ったくこれだから女ってのは・・・』 桜火は自分の行いが悪かったにも関わらず、杏を心の中で攻めている、まったく空気の読めない奴だ。 「おい杏!」 「何よさっきからもう!アンタとはここでお別れ、じゃね!」 そう言って杏は街門に向かう・・・が、桜火がその腕をつかんだ。 「ちょっと来い」 「何よ、離してよ!」 「黙って来い」 「・・・」 桜火の威圧に負け、引かれるがまま、街門から少し離れた人気のない場所に着いた。 「あの、な」 「・・・何よ」 「あ~・・・、その」 「・・・」 じっれたい。 何をするのかと思いきや、こんどは「あの、その」って。 なんなんだ、今度ふざけたら殴ってやる。 「杏・・・」 「・・・はい?」 あ~、怒ってやがる、この女。 いや、まぁ、はっきりしない俺が悪いんだろうな、ちきしょ~、どーなってんだ、心臓バクバクしてんぞ。 「何よ、何にもないなら行くわよ」 ついにシビレを切らした杏がその場を立ち去ろうとする。 「あ~待て!」 「・・・」 「・・・話があんだ、真剣な話だ、ちょっとだけだから聞いてくれ」 と、桜火は話し出した。 あのな、ハンターってのはお前が見た通り、危険な仕事だ、いつ死んでもおかしくねぇ。 俺だって最上級ハンターって言われてるけどよ、最上級になったらそのぶん危険度だって増す。 絶対に死なないなんて、約束できねぇんだ。 だから、その・・・。 まぁ、なんつーんだ、その、これ、受け取ってくれよ。 桜火は握っていた指輪を、杏の指にはめる。 その指輪は、淡い赤色をしているかと思えば、光の加減で薄く碧色にも輝く、不思議な宝玉がついていた。 さらにもう一個、燃えるような朱色をした指輪も同じ指にはめる、こっちのはサイズが少し大きい。 絶対に死なねぇ約束はできねぇけどよ・・・。 それでもよかったら、また昔の関係に戻ってくんねぇか? 無理にとは言わねぇよ、お前だって大変だもんな。 暇ができたら会いに来る、もう逃げたりはしねぇ。 手紙も書くし・・・、あ、文字わかんねぇんだった。 ・・・まぁ、とにかく。 次に会いに来た時に、お前がこの指輪を持ってたら、了承の“しるし”だと受け取る。 もし無くなってたら、俺はそのまま身を引く。 さんざん勝手やってきて、また勝手言うのも悪ぃと思ってる。 ただ、それでよかったら・・・。 「受け取ってくんねぇか、これ」 「・・・・」 沈黙だ。 終わったな、まーそうだろうな、いつ死ぬかもわかんねぇ男と付き合っても仕方ねぇしな。 あーあ、もうどうでもいいな、だめだ、今日はもうだめだ、酒だ、誰か酒をくれー。 ―スッ・・・― 桜火の唇に、杏の唇が触れる。 一瞬音が沈み、空気が止まる。 「・・・・、ありがと」 唇が離れた杏から、了承の一言。 目はかすかに潤み、唇は噛みしめられている。 「・・・これって?」 「そういう事よ」 「そ、そうか・・・、そういう事か!」 ここまでくると、二人にもう言葉はいらない。 昔のようにすぐ戻れる。 桜火の腕に杏が絡まり、一行の元へ帰っていく二人・・・、だが。 「ひゅー!」 「やるねー桜火、ドンドルマの人気女優だぞ?」 各方面の言葉が非常に痛い。 カイとリンはボウガンを手に持っている、恐らくスコープで監視し、生中継してたんだろう。 なんて奴だ、何が“一人は理解者が~”だ、結局お前もグルか、そうか。 「お前・・・、なにしてんのかわかってんだろうな?」 団長の大きなゴツゴツした顔が近づく、まさに天国から地獄に叩き落された感じだ。 「あいや、その・・・」 桜火は困っていた。 「まぁ、お前にしちゃよく頑張ったな、ほれ、もう帰るぞ、俺も早く嫁に会いたくなってきちまったよ」 困っている桜火を助けたのはリョー、固まっている桜火を引きずり、竜車に放り投げる。 「では、お疲れさんでしたー!」 大きな声で別れを告げると、一目散に竜車を動かすリョー。 「ま、待て!まだ話は終わっとらん!」 「急げ、リン」 「待ってよー!」 自慢の黒い馬を走らせながら、リン片手で持ち上げ、後ろに乗せる。 「ま、逃げるが勝ち、ってな」 「また逃げるのね、桜火さん・・・」 厳しいツッコミをいれつつ、カイのアプケロスが走り出す、後ろにはエリーが乗っている。 「あ~もう、なんて荒くしつけてんだ桜火さん!」 「頑張れよ、桜火のアプケロスは力強ぇぞー!」 暴れるアプケロスに乗っているのはクロウ、その横には、肉付きのいい馬に乗ったシュウ。 「・・・・、行っちまったな」 寂しげに後ろ姿を見ている団長の、三つ編みにされた髭が、風になびいていた―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 桜火と杏の長い旅は、ようやく中間地点を迎えた。 ハンターになり、どんどん上位になるにつれ、危険の増える仕事。 桜火はそのことばかりが気にかかり、いまいち踏み出せずにいた。 ハンターとは、平和を守る、一見輝かしい職業だが、忘れてはならない。 常に、尊い犠牲がついている事を。 常に、どこかで誰かが泣いている事を。 常に、誰かの想いが巡っている事を。 数々の想いをその武器に込め、強大な力に立ち向かう、モンスターハンター。 次の獲物は、もうすぐそこまできているのかもしれない―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ≪終≫ ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ジャンル別一覧
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